スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

水際―Astral Bridge

こんにちは、桜坂よねや酒店です。

今日は、『水際の光景「Astral Bridge」から+虫々大行進』につきまして、
伊藤愼一氏より寄せられた文章をご紹介したいと思います。

伊藤愼一【水際の光景「Astral Bridge」から+虫々大行進】

水際―Astral Bridge

 小さい頃、道路を挟んで家の前を流れる川はサイケデリックだった。ある日は紫色、翌日にはまん中あたりに鮮やかな緑色の流れがあって、岸の近くは桃色だったりした。当時、すぐ上流にある友禅工場の廃液がどんどん垂れ流され川を染めていた。家の前の御影橋という名の橋から見下ろすと、色の薄いところでは水中にヘドロのへばりついた藻のようなものがビロビロと揺れていのが見えた。
 この橋の下には人が住んでいて、二階の窓から見える私の家では「橋の下のひと」と呼んで、「あそこの子になるか!」などと私や妹を叱るのに利用したりしていた。
 橋を渡った川の西側は、土手の上に立派な木造の家が続き大学の先生などが暮らす文化的エリアで、少し先には下鴨神社という森の深い神社がある。川の東にあたるこちら側はというと、くず鉄屋の岩本さん、五色豆の製造卸の家、せむしのおっさんがご用聞きにくる大和屋運送店、アイスキャンデーを自家製造して売っている岩田さん、そろばん塾のわたしの家、何世帯もがトタンで仕切られた部屋で雑居している家、タバコ屋などで、うらの豆腐屋におつかいに行かされると、チマチョゴリのおばさんが歩いていたりした。
 やがて、公害問題が叫ばれる70年代頃に、上流の工場は移転し、川はだんだんときれいになっていき、いつのまにか、橋の下に暮らすひともいなくなっていた。

 東京に来て十数年経ったころ、21世紀も数年が過ぎていたが、山谷に行ってみようと、地図を広げてみた。くまなく探しても山谷という地名はない。浅草の向こう側だということはわかっているので、寄せ場と呼ばれる職業斡旋所を目指して行ってみることにした。小塚原刑場との境でもあった山谷堀支流の思川は、暗渠になり明治通の下を流れていた。泪橋という橋も地名しかない。辿り着いた斡旋所はたき火のせいで黒くなった壁や鉄柵に囲まれていて、昼間ということもありひとけがあまりない。その閑散とした界隈は同じ日雇い地区である大阪の西成地区に比べるととても寂しいものだった。

 写真を撮ると、こののっぺりとした出来合いの世界の裂け目をかいま見ることができるような気がする。東京という場所は、イメージやストーリーの中にあり、建築というものも虚構であり、物語の装置である。「水際」とは、世の中を絡めとっているその巨大な物語がほころびる場所で、物語の外へはみ出した人の住むところでもあり、また、テクノロジーが裂け目をつくり飛び出すところでもある。それゆえ、そこはひとが想起する物語へ何かが流れ込む回路でもある。

 千葉の海岸沿いと東京を行ったり来たりする生活を始めた頃、海岸で近所の男がいろんなゴミを積み上げて灯油をかけてがんがん燃やしていた。早朝に深い霧がたちこめる砂浜へいくと、貝殻、漁具の破片や、瓶、スニーカーなどに混じって、鳥の死骸がけっこう砂にまみれてころがっている。あとは、テトラと土木工事の荒々しい護岸。東京から約100キロ離れたこの場所も市街地には東京のサテライトでもある大型店舗が乱暴な感じでばらまかれているし、住民はそこに依存している。でも、この海水浴場でもなんでもない砂浜まで下りて来ると、東京やその物語はぶつっと終わる。
 ある夜、窓から遠くに花火の上がるのが見えた。屋根裏に行き、もう一度窓の外を見ると小さく赤やピンクの火花で描かれるいくつかの形。音も聞こえないくらい遠い。明かりの少ない外房の夜空に、慎ましくさえ見える点描の花。その右側の暗く広がる海のすぐ上には、水蒸気のレンズ効果で、大きく、赤い、十六夜の月が、凝然と浮かんでいた。
 暗い海に浮かぶ赤い月の光景を見つめることは、窓をあけて夜風を家の中に入れるようなもので、何かとの接触にしかすぎない。それを幻想的と呼び、自分たちの物語に位置づけ、安心することが嫌いな性分は川の傍でくずを集めて暮らすひとを見ながら育った京都の街に一つの理由があるような気もする。
 誰の心も本来、ほころびの場所や気配を見ようとする。フィクショナルな世界から、神話が生まれる場所へと、ふっとした拍子に架け渡される橋のことを私はAstral Bridgeと名付けた。


伊藤愼一【水際の光景「Astral Bridge」から+虫々大行進】

水際の光景「Astral Bridge」から+虫々大行進

何とも素敵な文章ですよね。
思わず懐かしさがこみ上げてくるような……

当店には、作品を眺めながら、またゆったりとした空間が楽しめる休憩スペースがございます。
ぜひご来店下さい!!

☆☆☆伊藤愼一氏来店予定日☆☆☆
◎8月7日(土)・8日(日)
◎8月21日(土)・22日(日)
◎8月28日(土)・29日(日)
◎8月31日(火)



tag : 桜坂 アートギャラリー よねや酒店 伊藤愼一 水際の光景「Astral Bridge」から+虫々大行進

コメントの投稿

非公開コメント

[桜坂アート・ギャラリー]
毎月国内外アーティストの写真・絵画・造形作品を展示販売。 本邦初「酒小売店が抱えたアート・ギャラリー」開店。缶ビールやワインやチーズやジェラードを買うついでに、又それらを気軽に飲食しながら、現代美術の最前線に立つアーティスト渾身の作品を鑑賞できます。
プロフィール

よねや酒店

Author:よねや酒店
住所:東京都大田区田園調布本町48-9<地図はこちら>
電話:03-3721-5358(12時~21時)
ギャラリー営業時間:14時~19時
酒屋営業時間:12時~21時
※水曜日不定休

【最寄り駅】
・東急多摩川線 沼部駅 徒歩6分
・東急東横線・目黒線 多摩川駅 徒歩12分
・東急池上線 雪が谷大塚駅 徒歩6分

WARNING
ギャラリー内では禁煙と以下の観覧マナーを守って下さい
(1)展示販売作品に直接触れたり、故意に汚したり、破損させたりしない事
(2)ギャラリー内で歩きながら飲食しない事
(3)ギャラリー内で声高に話したり、騒ぎ立てない事
(4)飲食スペースで泥酔したり、長時間スペースを占領したりしない事
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク
カレンダー
08 | 2017/09 | 10
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
最新記事
月別アーカイブ
FC2ブログランキング

FC2Blog Ranking

FC2カウンター
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
学問・文化・芸術
2625位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
デザイン・アート
740位
アクセスランキングを見る>>
最新コメント
カテゴリ
最新トラックバック
毎月情報掲載
個展なび
第18回展示展覧アーティスト
捧邦明写真展【GET READY.GET SET.】
Twitter
    follow me on Twitter
    よねや酒店のうた
    【作詞・作曲】ヤマサキタツヤ
    【演奏】ヤマサキタツヤ・プードルピンク・タクシー君
    第17回展示展覧アーティスト
    佐藤ブライアン勝彦【被災の星】 【被災の星】佐藤ブライアン勝彦
    第16回展示展覧アーティスト
    シギー吉田&曽根賢(ピスケン)の震災地漂流写真展
    第15回展示展覧アーティスト
    名越啓介『SMOKEY MOUNTAIN』
    第14回作品展覧販売アーティスト
    『3.11 それから、』
    第13回作品展覧販売アーティスト
    SHIGGY個展「死んだら殺すぞ」詩人PANTAの世界
    第12回作品展覧販売アーティスト
    林文浩写真展【THE UNDERGROUND SPIRITUAL  GAME  2】
    第11回作品展覧販売アーティスト
    鈴木海太『Na Zdravie!』
    第10回作品展覧販売アーティスト
    アイカワタケシ【才能を喰う鮫】
    第9回作品展覧販売アーティスト
    三島タカユキ ギターウルフ/USツアー2010 ポスター
    第8回作品展覧販売アーティスト
    Tribe Driveポスター
    11月の特別イベント
    酒好き集まれ!
    2010年の新酒ワインを楽しみましょう
    よねやヌーヴォー祭開催
    第7回作品展覧販売アーティスト
    ケロッピー前田「サスペンションズ☆空飛ぶ改造人間」
    第6回作品展覧販売アーティスト
    ヤマサキタツヤ【めし原画展】
    第5回作品展覧販売アーティスト
    伊藤愼一【水際の光景「Astral Bridge」から+虫々大行進】
    第4回作品展覧販売アーティスト
    西牧徹【黒戯画キエムクー展】
    第3回作品展覧販売アーティスト
    ALIVE!
    第2回作品展覧販売アーティスト
    佐藤ブライアン勝彦『una mujer bonita』 ポスター
    第1回作品展覧販売アーティスト
    名越さんポスター
    検索フォーム
    QRコード
    QR
    RSSリンクの表示
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。